“貸す”を超えて“暮らし”をつくる仕事へ
【向島ニュータウン再生プロジェクト②】

京都府向島ニュータウン

私たち長栄は、長年にわたり京都を拠点に、賃貸住宅の管理・運営を手がけてきました。その中で出会ったひとつの課題が、向島市営住宅をはじめとする「団地の空き家問題」でした。
きっかけは、当社代表・長田の地元である向島エリアで、廃校となった中学校の跡地活用について相談を受けたこと。地域の未来をどう描いていくか——、という問いを前に、私たちは「団地を再び暮らしの拠点にできないか」と考えるようになりました。
当初、学校跡地を新たな教育施設として活用し、周辺の市営住宅を学生寮として再生する構想も検討されていました。しかし、さまざまな経緯を経てその構想は実現には至らず、私たちはあらためてこのエリアが抱える本質的な課題と向き合うことになったのです。
京都市の調査によれば、近年の若年層や子育て世帯の転出先には、他府県の新興住宅地が多く含まれます。その理由のひとつが「家が高くて買えない」「市内に手ごろで住みやすい家がない」という現実でした。

京都府向島ニュータウン内の風景

一方で、市営住宅は空室が増え続けていました。そこには、「所得制限」という大きなハードルがありました。共働きである程度の収入があるご家庭は、たとえ市営住宅の空きがあっても入居ができない。入れても、古い設備や使いづらい間取りに躊躇する——、そんなミスマッチが、少しずつまちの暮らしを静かに後退させていたのです。
この状況を打破するため、京都市では「所得制限を外した市営住宅の提供」という全国初の取り組みに挑戦し、私たちも協力をさせて頂くことになりました。
団地の可能性を、もっと柔軟に、もっと今の暮らしに寄り添った形で再構築したい。その想いから始まったこのプロジェクトでは、ハード(住戸の設計・設備)とソフト(コミュニティ形成・入居サポート)の両面からアプローチを行っています。
具体的には、子育て世帯が暮らしやすい間取りや設備へのリノベーション、スマート家電を選べるオプション提案、そして既存住民との関係づくりを促すイベント開催などです。

向島ニュータウンを株式会社長栄が再開発する上で工夫した点

こうした取り組みを通じて、私たちは「古い建物を壊す」のではなく、「今ある暮らしの器を、もう一度磨く」ことで新しい価値を生み出せることを実感しています。

再生が難しいと言われていた市営住宅が、いま、多くの子育て世代に選ばれ始めています。

この向島での試みが、京都の、ひいては日本全国の“これからの団地再生”のロールモデルになれば——、そんな願いも込めて、私たちはこの取り組みを進めています。

京都府向島ニュータウンの室内

「部屋を貸す」ことだけが、私たちの仕事ではありません。「暮らしを支える」ことこそが、私たちの使命。

人が集まり、世代が交わり、地域の輪が育まれていく。その土台を静かに、でもしっかりと支えていく。そんな存在でありたいと、私たちは考えています。