「団地」と聞くと、少し懐かしい響きを感じる方もいらっしゃるかもしれません。かつて昭和の家族を支えたその住まいに、今ふたたび新しい価値を吹き込む。それが、私たち長栄が京都市と連携して進めている「向島ニュータウン再生プロジェクト」です。
株式会社長栄 上席執行役員の奥野雅裕が説明いたします。
京都市伏見区にあるこの団地は、1977年(昭和52年)から入居が始まり、現在では総戸数4200戸を誇る京都最大級の市営住宅群。その広さと歴史の深さを持ちながらも、高齢化や空室率の上昇といった課題に直面していました。


私たちがこの団地再生に乗り出した背景には、ある社会的な課題があります。現在の京都市では、住宅価格の高騰などを理由に、子育て世代の転出が加速しており、「住みたいけれど住めない」という声が多く聞かれていました。
とくに、共働きで一定の収入がある子育て世代は、市営住宅に“入りたくても入れない”存在でした。なぜなら、従来の市営住宅には所得制限があり、一定額を超えると入居できない制度になっていたからです。
そこで京都市は全国でも初となる「所得制限を撤廃した市営住宅の民間活用」に取り組みを開始され、当社が協力業者として参入しました。
この取り組みは、京都市にとって子育て世代に向けた新しい暮らしの選択肢を提示する挑戦であり、私たちにとっても新たな取り組みとなります。

リノベーションでは、かつての3DKの間取りを、広々としたLDKへと再設計。キッチンからリビングを見渡せるようにすることで、子どもの様子を見守りながら家事ができる工夫を施しました。ベビーカーが置ける玄関、たっぷりの収納スペース、そしてオプションで選べるスマート設備——、これらはすべて「子育てする家族の目線」から生まれた仕様です。

お部屋の賃料は月額5.8万円(共益費別)。周辺相場と比べても手が届きやすく、実際に見学されたご家族からは「想像よりもずっと快適」と嬉しい声をいただいています。
住環境も、子育て世代にやさしい要素が揃っています。団地内には広い公園が複数あり、近隣には保育園、小学校、子育て支援センターも。テニスコートやグラウンド、緑豊かな並木道——、のびのびとした環境の中で、子どもたちが健やかに育つ姿が思い浮かびます。

この再生プロジェクトにおいて、私たちが大切にしているのは「建物」だけではありません。「暮らし」の再生です。
既存の入居者と新しく住まわれるご家族が自然に交流できるよう、公園でのペンキ塗りイベントやワークショップも開催。世代を超えたつながりを育むことこそが、団地という場所の新たな価値だと私たちは信じています。

古くなったから壊すのではなく、活かし、磨き直すことで、新しい豊かさが生まれる。「団地」という住まいの余白には、まだまだ可能性が詰まっています。
この場所で、家族の“今”にぴったり寄り添う暮らしを、一緒に育てていけたら——、そんな想いで、私たちは今日も団地の再生に取り組んでいます。